■なんでもランキング P8
▼魅惑の書き出しランキング
書き出しは重要です。題と、書き出しと、結びですよね。名作は、やっぱりこれが優れていて目をひくってもんです。
→関連して・ドラマな題ランキング
「雪国」(川端康成)
枕草子と、平家物語を除けば、これが一番有名な書き出しかもしれないですね。「国境の長いトンネルを抜けると…」。 因みに、いとうせいこう/が「セケン・ムナサンヨー」の後書きで、これを引用しています。 英訳すると、「The train…」で始まる、と。言われてみれば、「トンネルを抜けると」には主語がない。英訳したときにクリアになる意味って、確かにありますね。
「失われた時を求めて 第1巻 ちくま文庫」(マルセル・プルースト/筑摩書房)
マドレーヌを紅茶に溶かして飲む。それだけは知っているという人も多いはずの世界的名冒頭部。
主人公はマドレーヌの溶けた紅茶を飲みながら、めちゃくちゃに長い回想をめぐらせるのです。
プルーストの細部にこだわるパラノイア的筆致には、註釈小説「中二階」(ニコルソン・ベイカー/白水社)を連想させられました。
もしこの作品が、「中二階」の体裁をとったら…とか妄想して笑ってしまいます。
昔、ウゴウゴ・ルーガで「失われた時を求めて」のミニゲーム(?)があってですね、「何をする?→(選択肢の中から)マドレーヌを食べる(を選ぶ)」という1シーンがありました。
ちょっと面白く感じた覚えがあります。
「夏への扉 ハヤカワ文庫」(R・A・ハインライン/早川書房)
古典。なんといっても冒頭部分がすばらしい。
主人公の飼い猫のピートは、冬になると、家にあるドアのうちどれか一つくらいは夏へつながっていると思って、「ぼく」にドアを全部開けさせて確かめる…。あのくだりを語って女の子を口説くといいのにと、わたしは常日頃、世の男性にアドバイスしています。
美しい日本語訳も忘れてはいけません。
福島正実さん、すばらしいです。
冒頭だけでも読む価値あり。
→タイムトラベルつながり
→猫つながり
「解体屋外伝」(いとうせいこう/講談社)
なんといっても、冒頭部分がすばらしい出来。
解体屋とは洗脳された人の洗脳を解く仕事人。やり手の解体屋が昏睡から醒めるところから物語は始まるのですが、昏睡の元は洗脳屋に敗戦したことなので、彼の脳には使うべき自分の言葉がありません。彼は既成の言葉(他者のテクスト)を使ってなんとか蘇ります。「おなつかしゅう!」と。ね、傑作の予感でしょ?個人的には最後まで既成の台詞のみで語ってほしかったな。(無理だけどさ)
覚醒の間際、彼が自分の言おうとしていることが、「他者のテクストの引用」に過ぎないのではないか、と躊躇するところが、よくできているし示唆的だなと思います。
因みに→「おなつかしゅう」→高橋和巳「邪宗門」。
→記憶つながり
▼ちょっとおまけ
「浅水湾の月 講談社文庫」(森瑶子/講談社)
小説家志望の青年が出てきまして(チョイ役)、「書き出しだけは決まったんだけど」と言うの。でもそれ以上進まないって。 無論、著者らしく小洒落た作中作が完成します。(と言うか、完成した、ということになります。) その結びがね、いいです。小話的で。
舞台は香港。一人の美少女がイギリス人に買われる─。 あやしげなんだけど、乾いたお色気が印象に残ります。
▼渾身の翻訳ランキング
この翻訳が好きという本、あるいは翻訳家ががんばってる本をあげてみました。
▼澁澤龍彦ならなんでも。
「O嬢の物語」(P・レアージュ 澁澤龍彦訳)
翻訳も小説もエッセイも、この人なら間違いない。美しい文章の見本にはいつもほれぼれ。愛さずにはいられません。 澁澤龍彦のものなら何でもいいんですけど、この「O嬢の物語」は寺山修司が「上海異人娼館」という題で映画化していました。高橋ひとみさんやピーターが出ててすごく好きでした。って言うか好きです(笑)。これを見たのはフランス語を習いたての頃で「O(オー)、見て」っていうフランス語がわかって得意でした。
▼齋藤磯雄ならなんでも。
「残酷物語」(ヴィリエ・ド・リラダン 齋藤磯雄訳/筑摩書房)
齋藤磯雄ならなんでもよくて、悪の華も齋藤磯雄訳にこだわって読んだクチですが、これはまた大好きなリラダンを訳しているんですもん。キリリとしたリラダンがさらに齋藤磯雄訳で永遠の名作に。 引用したい名訳の宝庫。極上品。
▼ジョイスがないから。
「ブルースを、ワイルドに 文春文庫」(エリカ・ジョング 柳瀬尚紀訳/文藝春秋)
柳瀬さんと言えば、アノ超大作フィネガンズ・ウェイク。だと思うんですけど、ジョイス自体在庫にないので、こちらを。意気のいいヒロインものですが、大変、すてきな出来栄え。
→詳しくは→名台詞ランキングヒロイン編その1
▼活字遊び。
「ぼくの小さな野蛮人」(アレクサンドル・ジャルダン 高橋啓訳/新潮社)
こういう話ってけっこう、「どう訳そう?」って悩むと思ったんですけど。なんでって、「絵あり、色あり、前代未聞の遊びでいっぱいの、やんちゃな本(帯より)」なんですもん。 でも訳者あとがきによると、どうも大変なのは本の製作者みたいですね。そっかー。でもやっぱり活字遊びは訳者の技量ってことでランクイン。
▼訳註がねー。
「リメイク ハヤカワ文庫SF」(コニー・ウィリス 大森望訳/早川書房)
とにかくたくさん映画やその名台詞が出てくるので、訳註でその出典をこまかく解説してる大森望さんの努力は特筆すべきですよね。映画好きにはたまらんお話です。
同じく渾身の訳註と言えば、「ドラキュラ紀元」(キム・ニューマン/東京創元社)もすごいです。
話が虚実混濁のモザイクなので巻末の登場人物事典がないとちょっと「はぁ?」なのです。
→ドラキュラつながり
→モザイクつながり
▼オマケ。
「セケン・ムナサンヨー」(いとうせいこう/角川書店)
これは、井原西鶴の「世間胸算用」を英訳したものを、さらに日本語に直訳(ここがミソ)したものです。そういうことするのは、やっぱりこの人、いとうせいこう。 いわゆる「外人の言う間違った日本」を楽しむ本ではないんですよ。 翻訳って何だろう? と思ったことはないですか? 原文は一つなのに、訳者によっていろんな訳文が生まれることの不思議。AをBと訳したのに、Bを訳すとAに戻らないことの不思議。その不思議を追求した本だと思いますね。面白い!
▼セットで読みたいランキング
これはあれとセットで読まなきゃ始まらん、と思う本のランキングです。
▼当たったのでしょうか?
「主な登場人物」(清水義範/実業之日本社)
「さらば愛しき女よ ハヤカワ文庫HM」(レイモンド・チャンドラー/早川書房)
「主な登場人物」は、表題作の他14のパロディを収録する短篇集。
さて、その表題作ですが、
登場人物紹介からあらすじを想像する話です。著者清水義範がハードボイルドの巨匠チャンドラーの「さらば愛しき女よ ハヤカワ文庫HM」の登場人物紹介のみを見て、犯人を当てようとする
実験的パロディ小説(?)。清水義範はがんばって結論を出すんですけど、それが当たってるかどうかは2冊を読んだ人のみのお楽しみ。
関連→イケてる註釈ランキング
▼一生飽きないと思う。
「広辞苑」(岩波書店)
「逆引き広辞苑」(岩波書店)
逆引き広辞苑、もしまだ持っていらっしゃらないのでしたら、是非、お持ちいただきたい。私はコレを無人島に持って行きたいです。飽きないから。 でもなー、「キャー、このネタ、誰かに言いたい!」と思っても言う相手がいないと相当つらいかも。そんなネタの宝庫なんですもん。 例えば、箸箱の隣りがドクトル・ジバコだとかね。 ただ逆引きだけしかないと、何のことかわかんなくてイライラしちゃう。 テレビの隣りは薄れ日だけど、薄れ日って何ぞ?ってね。だからセットなの!
▼青天の霹靂。
「記憶の絵 ちくま文庫」(森茉莉/筑摩書房)
「鴎外の子供たち ちくま文庫」(森類/筑摩書房)
鴎外の長女・茉莉。末っ子・類。茉莉の著書の中では、ぼんやりした茉莉と、それを助ける普通の人の類なのですが、類の著書を読むとすべてがひっくり返り、そこには推理小説のどんでん返しのような清々しさがあります。
類は純真な人なんです。そういう人は周囲を困らせますよね。「鴎外の子供たち」は言わば子供が世間とか周囲の思惑を何も考えずに書いた作文で、茉莉と類の義絶事件にまで発展した「森家外伝」です。本人は全然ピンと来てないみたいだけど、周囲の人は大変ですよ。
うーん、例えばね、自分が孤高の仙人を目指してたら、子供にただの極貧生活だと思われた、それはショック。そんな感じ。(なんじゃそれ。)
でも、その子供の言葉でビジョンが明確になることもあるわけで。そこが見過ごせないところ。
読む順番は「記憶の絵」の次に「鴎外の子供たち」。逆はナシです。
→姉弟つながり
→森家つながり
▼壮大なモザイク。
「三月は深き紅の淵を」(恩田陸)
「麦の海に沈む果実」(恩田陸)
セットで読みたい。って言うか、読まねばなるまい。「三月は深き紅の淵を」は、作中、同タイトルの本が登場。その本はたった一人にだけ、たった一晩だけしか貸してはならない。この本にまつわる4つの中短篇です。で、その第4話目に散見するアイデアが、「麦の海に沈む果実」という具合。「三月は深き紅の淵を」の読後に残ったモヤモヤが「麦の海に沈む果実」で解決するのかと言えば、そんなことは全然ないんだけど(笑)、読まずにはいらません。
作中作とか入れ子構造とかに弱いあなたに。
→モザイクつながり
▼単なるファン。
「甲子園の空に笑え 花とゆめコミックス」(川原泉/白泉社)
「メイプル戦記 全3巻 花とゆめコミックス」(川原泉/白泉社)
どちらも少女マンガ。田園の豆の木学園に赴任してきた広岡先生♀。野球は完全に素人なんだけど、野球部の顧問になっちゃって! 数年後、この広岡監督が女だけの球団スイートメイプルスを率いることになるのが「メイプル戦記」。どちらも傑作。
→野球つながり
→双子つながり
▼不幸ランキング
こんな不幸な話が、あっていいのか! っていう本のランキングです。特に子供向けの話に多いのが気になります。子どもは不幸好き?
→関連項目・泣ける本ランキング
▼ひどすぎるぅッ!
フランダースの犬。「フランダースの犬大百科」(ケイブン社)
こんなひどい話があってもいいんでしょうか? テレビアニメをやっていた頃、毎週、ネロのことを心配しながら見ていたのですが、挙句にあの結末。家族で涙ジョージョーでした。私的には
ちょっとしたトラウマです。ネロが貧しくて食事も満足に食べられなかったので、うちの母親は「ネロはパンの耳も食べられなかったのよ」と言って、私の好き嫌いを禁じました。反論の言葉を持たなかった私は、すっかり好き嫌いのない大人に育ちましたけども。この本は先頃公開されたアニメ映画、新・フランダースの犬(?)の方の大百科本です。世界名作劇場の特集もあります。子ども向け。
→犬つながり
▼みんな不幸好きなの?
「最悪のはじまり 世にも不幸なできごと1」(レモニー・スニケット/草思社)
ハリー・ポッター並のベストセラーシリーズだそうですが、ほんとですか? 著者自らがわざわざ宣言している通り、ハッピーのハの字も見当たらない不幸話です。
不幸の百貨店。
両親を亡くしたボードレール家の幼い3兄弟たち。遺産はありますが、長女ヴァイオレットが成人するまでは、使えません。遺言で親戚に預けられることを決められているので、他にどんなに良い人がいても、イヤな親戚に預けられます。当然遺産は狙われて…。ハッピーエンドはナシ。しかもこれがまだ「最悪のはじまり」だと言うんですから、困ったものです。一人じゃなくて3兄弟なのが救いですか。
→姉弟つながり
▼納得できないねッ!
人魚姫。「スジガネ入りのお姫サマになる方法」(島村洋子/大和出版)
人魚姫、子ども心にどうにも納得いかなくて、悔しくて、後でのこのこやって来た隣国の姫を呪いました。でも人魚姫は泡になっても、全然恨んだり、後悔したりはしてなくて、深遠なる恋の秘密を垣間見た気がしました。そう考えると、他のどんな童話より深い話かも。 さて、原作は手元にないので、これを。 恋愛の鉄人、島村洋子さんが、いろんなお姫様話をネタに展開する恋愛エッセイ。十八番ですな。 彼女は、王子様が実は、恩人が人魚姫であることを知っていたのではないか、と言います。そして好きだったのではないか、と。でも彼は一国の王子であったから民に対しての責任が…。あー、そうね、そういうこともアリかなぁ。とかくこの世はままならぬのです。
▼リアルな不幸。
「女の一生」(モーパッサン)
ありがちな不幸って言うか、現実的不幸って言うか。少なくとも、みのもんたの「思いっきり生電話」より、リアル。掃いて捨てるほどありそうな不幸です。
修道院で育った清らかで世間知らずのヒロインは、夫に裏切られ、息子に救いを見出しますが、老いてはその息子にも裏切られます。
…ありがちだけど、 この不幸が一番イヤじゃないですか? こんな不幸に遭うくらいなら、貧乏でも画家を目指して犬と共に死んだり(フランダースの犬)、3兄弟で協力して生き抜いたり(最悪のはじまり)、すべてを捨てて王子様を愛し抜いて死んだり(人魚姫)した方がよほどマシ。そう思いませんこと?
「女の一生」って題もなんかムカつく、と思って原題を調べると、Une vieでした。「ある一生」です。でも、女の一生ですわねー、やっぱり。
▼不幸中の不幸。
「不幸な子供」(エドワード・ゴーリー 柴田元幸訳/河出書房新社)
いつか入荷することがあったら、不幸ランキングに追加しようと決めていた1冊です。とうとう入荷。
ショッキング。
不幸で不幸で不幸なだけの絵本です。救いナシ。
モノクロの線画がまた不気味です。
でも多分、2度と忘れられないだろうし、不幸と言えば必ず思い出し続けるだろうという意味では、─素晴らしいです。と言う他ない。
他にも不幸な絵本をいっぱい出しておいでです。
「トレードマークの繊細な線画で圧倒的な背景を描き込み、一人の少女の不幸を悪趣味すれすれまでに描いた傑作」という紹介文が傑作。
▼他に… 「赤い蝋燭と人魚」(小川未明)、「ごんぎつね」(新見南吉)なんかが浮かぶのですが、またまた童話。なんでかなぁ? 子ども心に暗い影を落としませんか?
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