虚構と現実がモザイク状に、あるいは過去と現在がモザイク状になど、パターンはいろいろですが、ばらばらの小片(物語の断片、または中の1章など)が大きな絵(物語)をなしていく、モザイク状の物語に心引かれます。頭の中がごちゃごちゃになってきたり、ある時突然浮かび上がる全体像に感嘆したり。うっとりです。
→関連して・ウソほんとつながり▼たまらん。
「パラダイス・モーテル」
(エリック・マコーマック/東京創元社)
(カバーの紹介文が激烈にイイのでそのまま引用)
「ある町で、ある外科医が妻を殺し、バラバラにしたその体の一部を四人の子供の体内に埋めこんだ。幼いころ、そんな奇怪な事件の話をしてくれたのは、三十年間の失踪から戻って死の床に伏していた祖父だった。いまわたしは裕福な中年となり、ここパラダイス・モーテルで海を眺めながらうたた寝をしている。ふと、あの四人の子供のその後の運命がどうなったか、調べてみる気になった…虚実の皮膜を切り裂く〈語り=騙り〉の現代文学。」
→記憶つながり
▼キーッ。
「ウロボロスの偽書」
(竹本健治/講談社)
竹本健治が連載するミステリに、殺人鬼の手記が紛れ込みます。連載が進むうち、虚構と現実は異様に混濁、クリアな頭とは言いがたい店主は気が変になりそうになりました。アノ綾辻夫妻ら、ミステリ界の錚々たるメンバーも登場します。店主は竹本さんの妻が好き。「だって、一人じゃ生活できないもーん」って言ってなかった?言いたいよ、そのセリフ。
→関連して→ご夫婦ランキング
▼セットで読みたい。
「三月は深き紅の淵を」(恩田陸)と「麦の海に沈む果実」(恩田陸)
セットで読みたい。って言うか、読まねばなるまい。
「三月は深き紅の淵を」
作中、同タイトルの本が登場。その本はたった一人にだけ、たった一晩だけしか貸してはならない。この本にまつわる4つの中短篇。で、その第4話目に散見するアイデアが、↓
「麦の海に沈む果実」
という具合。「三月は深き紅の淵を」の読後に残ったモヤモヤが「麦の海に沈む果実」で解決するのかと言えば(ちょっと期待したんです)、そんなことは全然ない。ないんだが。
そのうち、この作者の他の作品も「三月は深き紅の淵を」とホニャララ、ってことになって、50年ぐらいあとに彼女の作品群すべてが巨大なモザイク絵を成していた!ジャーン!ってことにはなんないのか、と妄想してしまいました。いや、単なる妄想です。
作中作とか入れ子構造とかに弱いあなたに。
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▼こういうのすき。
「歯とスパイ」
(ジョルジョ・プレスブルゲル/河出書房新社)
「SD4・右上第一小臼歯 この歯が痛むとき必ず、要人が暗殺される」
東欧的想像力が生んだ寓意と奇想あふれる物語。(帯より)
あるスパイの1本1本の歯にまつわる物語を描く、歯小説(ししょうせつ)。
それぞれの歯についての物語というモザイクを極力年代順に並べてみたけれど、歯の並び順に読もうが、開いたページから読もうが一向に構わない、と作中にあります。つまり、この小説はコンピュータのようなもので、1本1本の歯を通して彼の人生の全体像にアクセスできる、と。
はー、モザイク大好き人は、どうしたって食指が動いちゃうってもんです。たまりません。
→スパイつながり
→歯つながり
参考
匣の中の失楽(竹本健治/講談社)
夢宮殿(イスマイル・カダレ/東京創元社)
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