日記形式の小説。日記がミソの小説。いっぱいある気がするんですけど、浮かびません。とりあえず在庫の中から。おもしろい作家の日記も加えてみました。
関連項目→今日は何の日つながり、→手帖つながり
関連項目→ミニ特集・あの人の日記(実在編)▼谷崎は、谷崎。
「鍵・瘋癲老人日記 新潮文庫」
(谷崎潤一郎/新潮社)
よろしーなぁ。谷崎さんは。
鍵も瘋癲老人日記も、濃いぃ日記小説です。
鍵なんて、自分の大好きな舞台で自分の好きなようにやった、ものすごい妄想小説。
だと思いませんか。
たまには原点に帰らなくっちゃと思わせられる、文学作品。
→鍵つながり
▼人生はいろいろある。
『絵日記に書けなかった一日』
(飯島早苗/白水社)
劇作家飯島早苗さんの短編小説集。
ちょっとキュートな装幀の白水社の本、となると、私はもう見過ごせないです。
で、この『絵日記に書けなかった一日』(表題作)は、少年の或る夏の日の思い出。
それはほろ苦く、外に出れば暑い夏、
ひんやりした水族館の中での胸をヒヤっとさせるできごととして、
我が事のように忘れられない気がしました。
ところで、世の中には、どうしても忘れられない話、
というのがあります。ありませんか?
例えば、私の場合、
○囚人が絵の扉を書いて逃げる話(ジャック・フィニイの短編)○かき氷を食べながら、一人一つずつ怖い話をする話(阿刀田高の短編)○お金目当てでお嬢様と結婚した男がエレベーターに閉じ込められる話。(阿刀田高の短編)○鼻冷えというホラー短編(中島らも)○「妻が消える日」(ウィリアム・アイリッシュ)○「父の娘」(モンゴメリ)なんかが忘れられません。コワイ話に限ったことではなくて、印象深い話、なんですよね。
→関連して→完璧な短編ランキング
→今日は何の日つながり
▼すばらしい。
「かげろうの日記遺文」
(室生犀星)
犀星は大好きです。
誰が書いていたのか、忘れましたが、
犀星の王朝作品(平安時代を舞台にした作品)には、時代考証の間違いがけっこうある、って。
でも構わないって。
私もそう思う。
舌を噛み切った女等の小品もたまらんですが、
「かげろうの日記遺文」でどっぷりつかるのもよろしいでしょう。
▼基本です?
「泥棒日記 新潮文庫」
(ジャン・ジュネ/新潮社)
日記形式ではないです。
泥棒作家ジャン・ジュネの自伝的(と言われる)小説。
フランス文学、倒錯、耽美とくれば、
一度は通らねばならないジャン・ジュネの道ですが、
その道は意外にも茨の道でして、
倒錯って何?と思わざるを得ない、普通人は多いはず。
はい、私はその一人です(笑)。
ここには倒錯風の倒錯ではなく、本当の倒錯があり、
本当の倒錯とは真面目なものなのだと知る、店主18歳の夏でした(うそ)。
→泥棒つながり
→ゲイつながり
▼武士の日記。
「元禄御畳奉行の日記 尾張藩士の見た浮世 中公新書」
(神坂次郎/中央公論社)
あんまし人は変わんないんだねーと、しみじみ
つぶやきたくなるような、江戸時代の武士・朝日文左衛門の日記「鸚鵡籠中記」についての本。「鸚鵡籠中記」って、なんと26年分の日記なんですよ。筆者はれっきとした武士なんだけれど、放蕩三昧。
毎日、お気楽に過ごし、妻に頭は上がらず、まさに必殺の中村主水のような人。
→つづきを読む。
▼爆笑。
「東京異端者日記」
(森奈津子/廣済堂出版)
「※※で××な作家の日常(帯より)」。
帯の通り、※※で××な森奈津子さんの日記エッセイ。
爆笑間違いナシ。
一家に一冊(笑)。でも子どもには読ませられません。
文中に出てくる他の作家さんたちの紹介文がまた爆笑もの。
それだけでも読んでいただきたい!
一緒に笑いましょう。
ホームページに発表した日記の単行本化だそうです。
▼気になるぅ。
「ブラックネルの殺人理論」
(ウォラス・ヒルディック 広瀬順弘訳/角川書店)
そそられるあらすじ+稀少気味=店主オススメ。
HoneyBeeBrandにおける公式の良い例です。
夫の日記を盗み読んだパットは驚く。夫が自分の殺人理論を実践すると日記で宣言、さらに記された実験結果は実際の殺人事件と一致している!
物語の中で、日記を盗み読むとロクなことがないですよね、大抵は。
▼さらっと。
「409号室の患者」
(綾辻行人/南雲堂)
綾辻行人が随分若かった頃の作品だそうです。初期作品。
書けない時期を経てようやく形にした1作、ということで、
著者にとって思い入れのある作品のようです。
デビュー後、さらに推敲を重ねていたこれを、EQ誌上に発表。
「セバスチャン・ジャプリゾの傑作『シンデレラの罠』への
オマージュのつもりで(あとがきより)」だそうですよ。
あ、やっぱりね。
「事故で失った記憶」、「わたしはいったい誰なのか?」という帯から
『シンデレラの罠』かな?と、思っていたので納得しました。
事故で記憶を失った409号室の患者が、混乱した気持ちを整理するために、日記を付けることにします。実際、この本は開くと日記帳のような体裁ですから、他人の日記を読んでいる臨場感アリ。
夫婦で同乗していた車の事故。夫は死亡。私は妻の園子だ、園子の名前に聞き覚えがある。
と思ったけれど?
本家『シンデレラの罠』の方がそりゃーイイですが、
中編でさらさらっと読めますので、おヒマな時や、飛行機、列車の中ででも。
ある程度驚かせてくれます。私はね、あそこで分かっちゃいました。テヘッ(エラそう)。
→『シンデレラの罠』って→記憶つながり
→綾辻行人つながり
▼裏日記。
「一葉裏日誌(コミック)」
(上村一夫/小学館)
樋口一葉が主人公。
彼女の周囲で起こった事件3つ。
いずれも殺人がらみで、一葉が持ち前の観察眼で真相を見抜きます。
それをしたためた裏日記ということです。
上村一夫描く一葉の味とミステリー味が、よく合います。
文庫版も出ていますが、どうせなら、やっぱりこの単行本がいいんじゃないかなぁ。
一葉モノ「たけくらべの頃」「花ごもりの頃」「にごりえの頃」に加えて、歌麿を描く「うたまる」を収録。
▼そうかー。
「日記のお手本―自分史を刻もう 小学館文庫」
(荒木経惟ほか/小学館)
様々な人の日記を収録。
梶井基次郎や森鴎外や谷譲次らの日記もあるんですけど、
やっぱり「包茎亭日乗―奔放な日常に写し出される純愛の記録」(荒木経惟)に尽きるんじゃないでしょうか。
ん〜。そうか〜。ほんとかな。ほんとにそんな生活なのかな〜。
いろいろ破天荒な荒木さんも、7月7日、陽子さんの命日には必ず思い出して、
「別れても7月7日には会ってセックスしようって言ってたのに。死んじゃ無理だ」
って書いているところが泣かせます。いいねぇ。
たくさん出てくる女優さんたちの名前とその意外な素顔を感じるエピソードに、
ワイドショー的関心も刺激されます。みんなイイ女に見える!
▼ともだちになって。
「日日雑記 中公文庫」
(武田百合子/中央公論社)
最高!
面白い。武田百合子さんと言えば、→コレや、→コレで、
勝手な親しみを感じておりました。
本書の身辺雑記もとても良いです。
「まーた武田さんはそんなこと言っちゃってさ」と、ウフッと微笑む。
でもそのすぐ後で彼女の結論に愕然とさせられたり、
ブハッと吹き出させられることもしばしば。
母の日というので、御馳走を食べに出かけた武田さん親娘。
六千円もかけたのにまずくて。「わかめだけ普通の味」ウフッ。
「誰か入ってきて、何か注文して、まずさに驚く顔を一目見てから帰りたいと暫く待っていたが、
誰も入ってこなかった。」クスッ。
「今年は、あんたは厄年だからね。あの店で厄落とししたと思えばいいんだ。よく厄年には財布落としたりすると厄落としだというでしょう」
「本当だ。まずいものを食べると、財布落したような気分だ。今日は六千円入った財布を…」
それから、思い出に残るまずい食物を、めいめいにあげた。
アハハと、大笑いです。
あ、もうちょっと引用してもいいですか。天皇主催の園遊会をテレビで見て。
─三原山噴火の大島町長夫妻も並んでいた。天皇が、大へんでしたね、と声をかけられると、痩せました、と町長夫人は答えた。天皇は何度も肯かれながら、次はその隣りの顔の大きな老婦人へ、
「どうです? ときどき、あのときのことを思い出して…えッ? 非常に愉快な気持になっているでしょうね」と、実に人なつこそうに声をかけられた。このような質問から察するに、この老婦人は運の悪さを克服して立ち直ったえらい人ではなく、運がよかった強かったえらい人にちがいないが、一体誰なのかしら、と思ったら、昔のオリンピック水泳選手前畑秀子さんだった。天皇が年をとられても、はっきりした頭脳の持ち主であられることに感心した。もし町長夫人と前畑秀子さんとをとりちがえて話しかけられれば、大へんなことになってしまう。
ンフフ。武田さん、好きです。
※流通中
▼読んでみてもいい。
「殺す」
(J・G・バラード 山田順子訳/東京創元社)
高級住宅街で32人の大人が殺され、13人の子供が誘拐された。精神分析医グレヴィルは、事件を調べ、恐ろしい真実に気付く─。
それだけの話です。グレヴィルの書いた法医学日誌という体裁で、簡潔な一人称。
その書き方と構成が巧いのです。
すぐに読めますが、最後まできっちり読ませますので、読んでみてもいいのでは?
▼ええわぁ。
「富士日記 上中下 中公文庫」
(武田百合子/中央公論社)
「夫武田泰淳と過ごした富士山麓での十三年間の一瞬一瞬の生を、澄明な眼と無垢の心で克明にとらえ天衣無縫の文体でうつし出す、思索的文学者と天性の芸術者とのめずらしい組み合せのユニークな日記(あらすじより)」
とか言われると、すごく大真面目で、面白くないんじゃないかという誤解を招きませんか?
面白い文学です。面白い、しかも文学で、日記。
ずーっと→コレの感じ、と思っていただければ良いです。
上中下巻でたっぷり読める。
※流通中
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