■今日の一押し P9
▼SF嫌い、映画好きのための。
『リメイク ハヤカワ文庫SF』(コニー・ウィリス 大森望訳/早川書房)
SFは読まない人でも、スター・ウォーズは見る、SFは苦手な人でも、バック・トゥー・ザ・フューチャーは見る。SF的なもの一切がダメという人はいないと思うのです。みんな心にSFの素を持っているはずだ! え~、そうかな~と、口車にのせられて心が揺れた方は是非、こちらをどうぞ。難しい理論はありません。むしろ難しいのは、中に出てくる古い映画のセリフの出典のほう。「これ、どの映画だっけ~」と悩ましいことのほうがずっと多いはずです。(巻末に解説付)
未来では、映画は新しく撮る必要はない。俳優もいらない。マリリンやオードリー、ゲーリー・クーパー、フレッド・アステアら、かつての名優たちがデジタライズされていて、いつでも好きにリメイクできるのだから。
また未来では、酒は有害物質として、映画からは消去されています。主人公トムの仕事は、酒や麻薬を昔の映画から消すこと。映画を愛する彼は、意にそまない仕事をして気分的に後ろ向き。世をリタイア気味。
そんな彼が出会ったアリスという少女は、ダンスのレッスンに夢中で、もっと上達して、ミュージカル映画に出たいと望んでいます。それは無理だ、もうミュージカルは作られていない。ダンサーなんかはいない。ダンサーはいなくてもフレッド・アステアが踊ってくれる。映画に出たいのなら、自分の画像を貼り込めばいい。彼女にそう告げて傷つけて…。
ここからがイイところなので、是非読んでいただきたい。そこを語りたいけどそこがイイところなので、我慢して言いません。うぅ言いたい! 私はこれを「タイムトラベルつながり」に入れています。一番ハッとさせられて、一番爽やかさを感じた「過去への行き方」でした。ひとことだけ言うと、以下反転ネタバレ(かな?)ここから→
努力で「過去に行った」人です。←ここまで
爽やか、ロマンチック。
→タイムトラベルつながり
→ミニ特集・シネマの世界
▼ちょっと好き。
『ATSUKI ONISHIニット絵本』(大西厚樹/文化出版局)
こういう試みが好きです。編物はまったく出来ないし、こんなオトメな服ももう着られないし、大好きと言うよりは、「ちょっと好き」。
メアリ・ポピンズ、赤ずきんちゃん、不思議の国のアリスをイメージしたニット、ファッションをカラー写真で紹介。基本はニット教本ですが、物語を感じるカラー写真故に絵本風です。
テキストはナシ。ん~、文章も少し入れてほしかったな。そうしたら、もっと絵本っぽいもんね。
カラー部分は32p。残りはモノクロで編み方の解説です。
メアリ・ポピンズのモデルは甲田益也子、赤ずきんちゃんはモナ、アリスはバレリア。赤ずきんちゃんがゴツイけど、まぁいいや。赤頭巾ちゃんは、もっとロリータっぽいキュートさがいいと思うんだけど、アツキオオニシと私の狙いは違うようです。ややワイルドです。そうか、ちょっと野性味プラスなのね。
料理家ならお菓子絵本を、デザイナーならニット絵本を、作りたくなるでしょう。いいですね。もっとどんどんやってほしいです。
→ミニ特集・お料理絵本
▼無理があるよ。
『少女ラブキンズとマファルー老人の冒険―さかさまマンガ』(グスターブ・ファービーク 坂根厳夫訳/TBS出版会)
え~、よく聞いてください。
6コマ漫画が24編収録されています。
その6コマ漫画は、1度普通に読んでから、本をさかさまにして読みます。すると、それは先ほどの6コマの続きになっていますから、6コマ漫画ではなく、じつは12コマ漫画です。
─以上。
分かります?
百聞は一見に如かず。とにかくご覧いただきたい。驚きます。少し種明かしをすると、少女ラブキンズとマファルー老人のコンビは、逆さまにすると入れ替わります。あーら不思議。少女が老人に。それとね、ちょっと想像していただきたいのですが、特に、1度目に読む6コマ目はさかさまにして読む1コマ目(つまり7コマ目)とイコールですのよ。…でしょ? びっくりですわ。
しかし! 無理がないとは言いません。
むしろ、すごく無理があると言いたい(笑)。
どうしてもさかさまにしか見えなくて、苦しむことも多々あり。それでも「天才!(変人!)」としか思えないところが、この本のすごいところなんです。
ぜひ一度、ご覧ください。そして人に見せましょう。
※ご注意! 諸般の事情により、絵はかわいくありません(笑)!
▼ロマンの種。
『レベル3 改訂版 異色作家短篇集3』(ジャック・フィニイ 福島正実訳/早川書房)
ジャック・フィニイさんは、物語の種を持っているのです。
その物語の種から、赤い花を咲かせるのも、青い花を咲かせるのも自由自在、任せとけ!って感じです。頼もしい。
フィニイさんの種は、はっきり言うと、古き良き時代へのノスタルジーです。「なーんだ」と言っちゃダメ。朝顔にもいろんな朝顔があるように、彼はその種から、わくわくする長編や、ほのぼのした短編、ゾッとする短編、ハッとする短編、心に残る短編など、もう好き放題の色と形で咲かせているんです。
ハヤカワ文庫内でもファンタジーに入ったり、SFに入ったり、普通ノベルに入ったり、所在は定まりません。決められないんですよねぇ。
これまで「ふりだしに戻る」、「愛の手紙」、「ゲイルズバーグの春を愛す」
でフィニイさんにズガーンと魂を撃ち抜かれていた私は、「レベル3」を読みたくてたまりませんでした。
改訂版が出る前の古書価格はもちろん、出てからの定価も高く、見送っておりましたがこの程、入荷。イェー。
表題作「レベル3」の他、「おかしな隣人」「こわい」「失踪人名簿」「潮時」「第二のチャンス」など、短編11編を収録しています。
中でもやっぱり「レベル3」が好きかな。オススメです。
→何レベル?つながり
→タイムトラベルつながり
▼いっしょに行こう!
『カロリーヌのせかいのたび オールカラー版世界の童話23』(ピエール・プロブスト 土家由岐雄・福島のり子訳/小学館)
見た瞬間、「うわっ」って思いました。 これ見たことある~。かわいい~。 味わいがね、とてもいい。カッ飛んだ楽しさ。明るくて元気のいっぱい出る絵。ちょっとこれは、日本の風土からは出ない絵だと思いませんか? ヨーロッパの香りがするー。ビビッド、大らか。お話も自由奔放、のびのびしてる。 カロリーヌちゃんが友達の子猫や小犬を御供に世界旅行。段取りは自分でやります。自分のことは自分で! そんなフランスらしい自立心を助ける絵本のようですが、ただ楽しいです。 「本に出てくるおいしい食べ物」のコーナーに入れようか迷ったほど、世界の食べ物が出てきます。オランダではチーズで鞠つきして怒られ、カナダではメープルシロップを舐めてます。いいねぇ! イタリアではピサの斜塔をまっすぐにしようと努力してました(笑)。インドではもちろん虎に遭遇。 昔、夢中で読んだ方、是非どうぞ。
そんなカロリーヌちゃんがまた冒険に出るのはコチラ。
『カロリーヌのぼうけん オールカラー版世界の童話35』(ピエール・プロブスト 土家由岐雄・福島のり子訳/小学館)
インドの友達から手紙が来ました。「遊びにおいで、砂漠で待ってる子ライオンのキットも連れてきて」。
というわけで、カロリーヌちゃんがまた旅に出ます。他に、歴史を学ぶ「ふしぎのくにのカロリーヌ」、
カロリーヌがパーティを開く「カロリーヌのすてきなパーティ」を収録。
→ミニ特集・どんな旅に出る?
→オールカラー版世界の童話の在庫を検索する
▼最近、なんかイヤになって来たという大人の女性に。
『カサンドラの城』(ドディー・スミス 石田英子訳/朔北社)
マイディアストーリーシリーズの第二弾を出すなら、これを入れて欲しいなぁ。 英米では、母から娘へ、半世紀にわたって読み継がれている物語らしいです。それも納得。 舞台はイギリス。1930年代。ヒロインのカサンドラは17歳。お姉ちゃんは21歳。愚弟もいます。ママはすでに亡く、パパと継母がいます。(継母はとってもイイ人です。)パパの厭世から、村のはずれのお城を借りて生活中。(いいなぁ!)
パパはベストセラー作家でしたが、今は書けなくなって、一家は困窮しています。チョー貧乏。そんな貧乏の中でも、想像力で楽しく暮らすヒロインの日記の体裁で書かれています。
お姉ちゃんの方は貧乏がすっかりいやになって、何とかしたい、でも出会いもないと嘆いています。いつの時代も…(笑)。そんな或る日、二人のアメリカ人兄弟が近所にやってきました! お金持ちだ!(「高慢と偏見」?)そうそう、忘れちゃいけないのは、ちっさい頃からヒロインを愛する雑用係のスティーヴンね。もうお給料も出ていないのに、一人で働き、一家を養っています。すんごいイケメンです。健気です。私はスティーヴンが好きだな。
殿方の気を惹く大作戦、大事件、ファッション、恋。いつものアレコレがいっぱいなわけですよ!
あしながおじさん、赤毛のアン…、いつの世にも絶えない、読んで楽しい、少女の語る日々の生活。等身大の少女時代。多分、あなたのお気に入り男性が一人は出てくる少女小説です。分厚いです。たっぷりどうぞ。
→城つながり
→ミニ特集・角川文庫マイディアストーリー
▼こっそり集めたい。
『美女と野獣 幻の絵本館』(W・ヒース・ロビンソン絵 谷林真理子訳/立風書房)
ないしょにして、こっそり集めたい絵本です。立風書房の「幻の絵本館」シリーズ、ぜーんぶ欲しいんだけどなー。難しそうだ。
ないしょだけど、一押ししておこう(笑)。
あくまでも「幻の絵本(原本)」の魅力を紹介しようと尽力しているシリーズで、再現しているわけではありません
。しかし、頑張っています。発行時からすでにマイナーの香りがしていたに違いありませんな。
ほんの70ページほどの絵本で、もう少し挿絵を増やして欲しいとか、レイアウトをこうして欲しいとか要望はありますが、絵本好きは心を動かされると思います。コレクターもそそられると思います。私、一目見た時から、恋の花が咲きましたから。
「美女と野獣」「眠れる森の美女」「青ひげ」を収録。カラー挿絵は6点収録。かわいい絵なのに、物語は子供向け脚色のない大人向け残酷版です。やるねぇ。
ウィリアム・ヒース・ロビンソン(1872-1944)は、さし絵本界では知る人ぞ知る、イラストレーターさん。その辺りの解説も分かりやすかったです。
→青ひげつながり
▼詩を作るより恋をしろ。
『尾崎翠 ちくま日本文学全集』(尾崎翠/筑摩書房)
─男も女も存在理由を獲得するには恋なんだ。リイベ、こい、ラヴ。どこの国だってだからこの事実には美しい言葉を当てているんだ。 お前の青靴下と正反対な美しい言葉を─(『アップルパイの午後』より)
どうです? ね、どう? どうよ?!
かつて、文庫サイズのちくま日本文学全集が本屋の新刊として平積みされていた頃。初めて『尾崎翠』に出会った瞬間のことを私は忘れません。
帯は「今晩蘚が恋をはじめたんだよ」でした。コケが恋? なんじゃそりゃ? でもすごく心惹かれる。その手の予感にハズレはありません。ハズしませんもん。それこそが私の自慢です。
読んで興奮して、会う人ごとに言いふらして以来ずーっと、尾崎翠ラヴです。
前述『アップルパイの午後』は昭和4年の作品。蘚が恋をする『第七官界彷徨』は昭和6年! なのに何でしょ? この褪せない輝きと香り。今朝咲いたばっかりの小さな薔薇。どうしても他にいい言葉が浮かばなくて、いつも使っちゃう「清新」という単語がピッタリ。
尾崎翠入門編として最適なのは本書でしょう。全集はちょっと高い。ちくま文庫から上下の集成も出ていますが、とりあえず試したい方には本書がオススメ。再入荷したので、改めて一押ししておきます。
心理学の徒・小野一助、蘚の恋愛を研究中の小野二助、いとこの三五郎は音楽学校浪人中、そこに上京してきた妹・小野町子ちゃんに、まだ会ってない方は、今すぐ会った方がいいと思いますよ~。
→りんごつながり
→本に出てくるおいしい食べ物
▼キャラクター商品を出してほしい。
『ブリスさん』(J・R・R・トールキン 田中明子訳/評論社)
凝った絵本です。出版社の定価¥2300ですよ。びっくり。それもそのはず、本書を開くと、右のページは、トールキンさんの筆跡をそのまま味わうことができる自筆原本 (つまり英語)、左のページはその対訳となっています。 挿絵もトールキンさんなんですの。かわいい絵ですなぁー。「キリンウサギ」とブリスさんのキャラクター商品を出したらいかがか? と、誰かに提言したい。
ブリスさんが自動車を買って始まるお話。指輪物語の天才が楽しんで書いた、とことんユーモラスな童話絵本。巨匠の楽しみが伝わってくるノリノリのとぼけた筆致で、子供は大喜びでしょう。大人だって笑っちゃいます。私はブリスさんがお金を払うところが好きです。「払うんだ~」って思いました(笑)。
ちびくろサンボ、ぐりとぐら、そしてブリスさん。その位、上位に入ってきてもいい絵本だと思います。思いません?
易しい英語です。教科書に使うといいのに!
関連して →それに乗りたいランキング
▼見蕩れたい。
『フレデリック・レイトン』(谷田博幸解説/トレヴィル)
画集です。フレデリック・レイトン。ロードが付いてます。レイトン卿ですか。
絵のことはさっぱりで、良いと言われるものを見、中でも好きなものだけを記憶しています。とっても受動的。私の知っている絵の範囲は狭ーいのです。
フレデリック・レイトンも、名前だけ聞いた時点では、「はぁ?」でした。すみません。でも絵を見たら、「ははぁ」でした。見てる。特にこのカバー。そして、「ヴェネツィアの貴婦人」の豪華な衣裳の織り目。あぁ、この人かー。
どうしてもエロチックに見える肢体のイカロス。セイレーンの肌の色。男にまとわりつく女の肌の柔らかな息苦しさ。「祈願」の布を通す光。レイトン卿の絵がこれでもかと、約50点収録されています。解説付。
見る人を恍惚とさせる絵です。お好きな方にとってはたまらんでしょう。絶対手元におきたいと、願うはずです。是非どうぞ。
→ミニ特集・トレヴィル
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