香りが小説に出て来る時には、官能的、ノスタルジック、恐怖のエッセンス、いろんな顔があります。 ▼忘れられない物語。
「香水」
(パトリック・ジュースキント/文藝春秋)
とにかく印象的です。
読後何年も経った今も、面白かったなぁって思い出せますもん。
ただ、なんと言えばいんでしょうか?
分類が難しいですよね。
うー。
並外れた嗅覚の持ち主が主人公。
彼の感じる世界が、見知らぬ世界のようで、強烈なんです。
鼻だけの存在になった気分?
彼は調香師となりますが、やがてある香りに執着し始めます。
やめられないとまらない、一晩で読んじゃう本のひとつ。
<パラノイア的主人公><分類に困る物語>ってことで、
「コレクター」(ジョン・ファウルズ)を連想しました。
※文庫化されて流通中。当店在庫は単行本ですので御注意。
▼眠れない。
「人体模型の夜」
(中島らも/集英社)
すべてが人体(のパーツ)に関する短編集。
中でも花冷えならぬ「鼻冷え」が怖い。
調香師の女主人公の恐怖体験。読後のダメージ大。
フェティッシュな面白味もあり、おすすめの1冊だけど、
その怖さゆえに鼻冷えはあんまり読み返したくないんです。
▼中井さーん。
「薔薇の獄 もしくは鳥の匂いのする少年」
(「悪夢の骨牌−講談社文庫−」収録作)
(中井英夫/講談社)
店主がよーく記憶している1篇。
出てくる少年が小鳥の胸毛の匂いがするって言うんですもの。
文鳥オーナーの愛鳥家としては、忘れられません。
「小鳥の胸毛に鼻をおし当てたときのような
かすかに焦げくさい匂いがした」
って、ほんとにうますぎます。小鳥ってその通りの匂いがするんですから!
美しい奇譚の数々をおさめる、まさに秘蔵に値する文庫本。
副題はとらんぷ譚(4冊中の1冊です)。
→小鳥つながり(作成中)
→美少年つながり
→トランプつながり
▼もひとつ中井さん。
『メルヘンの部屋7 香りのおもいで』
(中井英夫/詩と文、建石修志/画、世界文化社)
この、『香りのおもいで』は中井英夫の全作品リストに入っているのですが、ファンでも持っていない方は多いはず。幻の書、というのは言いすぎですかね?「香水に寄せる11の脚韻詩の試み」を収録しています。(作品自体は作品集にも収録されています。)
→ミニ特集01・メルヘンの部屋
▼むせる。
「廃園」(恩田陸)
(「悪魔のような女−女流ミステリー傑作選−ハルキ文庫−」収録作)
トリックはまぁ、恩田さんにしては軽め。さらっとね。
でも、<なんかあるー>、<気付きたくないことに気付きそうでコワイ>
そんな期待でうっすら寒い。
さらさらっと書いても、あっと言う間にそんな気持ちにさせてくれるのは
もはや熟練の腕前と申せましょう。
薔薇の香りムンムンでむせ返りそうになる小品。
▼くさーっ。
「俺カレー」
(東京カリー番長監修/アスペクト)
1冊まるごとカレーの本。
カバーを外せば、本体は黄色。
そして、この本、なんか匂うと思ったら、
カバー折り返し部分をこすると、カレーの香りが漂う仕掛けです(笑)。
クサー。
→詳しくは
でも、こういう仕掛けに弱いんです。
数が揃ったら、<香りのする本>の特集をしたいです。
▼源氏物語には頻出。
「薫大将と匂の宮」
(岡田鯱彦/国書刊行会)
源氏物語には、香りの記述がいっぱい。みなさま、香を焚きしめてますからね。
特に第二部は薫大将が主人公。
しかし、薫の君は、どうしても光パパに勝てなかったですよねぇ。
昔の人々も、「今度のヒーローはイマイチで面白くないわぁ」
などと思ったのかしら? うふふ。
香りつながりに入れるには、源氏物語関係なら
なんでもいいようなもんですが、特にこの本、題もいかにもで
ふさわしい感じなので、選出です。
かなり、驚愕のあらすじです。
「二人の貴公子の恋の鞘当が招いた美しい姫君たちの死。
紫式部と清少納言が推理を競う王朝ミステリ。」
こういう、思わず顔がほころんじゃうあらすじ、大好きです。
→源氏つながり
▼よろしい感じです。
「香水ジルバ」
(トム・ロビンズ 高見浩訳/新潮社)
あぁ、ワクワクしますね、この感じ。
もっと早く読めばよかったなぁ。
過去と現在をつなぐ事件。過去が現在に影響するエピソードの積み重ね。
しかも驚きのラスト、らしいですよ。
ちょっと待って。今、確かめてるとこ!
わくわく〜。
ややフライング気味で大紹介。
→時を越える事件つながり
▼図録だけど。
「図録 〔特別展〕香りの美学─香りに込められた人々の想い─香水瓶の芸術」
(箱根ガラスの森美術館)
(会期:2002年4月1日〜10月31日) 全144頁。
展覧会図録ですけど、立派です。面白いもん、見てて。
テーマがテーマだけに、充分見て楽しめる図録に仕上がっています。
そりゃまぁ実際見たかったな、という気はしますが、行かなかった人も普通の本のように楽しめると思いますね。
かわいく、美しく、凝った、香水瓶の数々をカラー写真で一挙掲載。
現代の何とか社製のナニナニとかではなくて、
「犬を抱く少年像香水瓶」ドイツ・マイセン・18世紀とか、
「女性を隠して運ぶ兵士像香水瓶」フランス・サムソン窯・19世紀とか、
そういうことです。
そしてその解説付き。
欲しい〜。
ワタクシの見たところ、日本で言うなら、根付けのコレクションを見る気持ちに似ているかも。
ミニチュア好きの心をくすぐります。
▼お手軽な香水総括。
「香水の本 新潮文庫」
(平田幸子監修 ワールド・フレグランス・コレクション編/新潮社)
時々立派なカラー写真満載文庫を出す新潮文庫。
その一味です。
今度特集をしようかな?
かなり詳細に香りについて、有名香水について、解説しているので、
サラサラ〜っと香水について知りたい方にはちょうどよろしいでしょう。
よくまとまっています。
ところで、キャロン社のナルシス・ノワール、嗅ぎたいと思い続けて10年くらいでしょうか。
どんな香り? ばばくさい?
もはや廃盤になってそうで怖いなぁ。いつか嗅ぎたいぞ。
他に…「イヴォンヌの香り」
「バベルの薫り」(題だけ)
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