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詩人VS思春期。
『伊藤ふきげん製作所』
伊藤比呂美/毎日新聞社)

「良いおっぱい悪いおっぱい」で、パワフルなママぶりを発揮していた伊藤比呂美さんですが、その後、離婚&再婚。渡米して、お子様たちの思春期に向き合うことになります。毎日新聞の日曜版に連載されたエッセイだそうです。
「良いおっぱい〜」の時の伊藤さんがあまりに、無敵だったので、さぞかし今回もやってくれるのだろうと思いきや、意外にも、思春期にはてこずってる様子。詩人でも思春期にはてこずるんだなぁ。アメリカにいるということ、継父がいること、そのせいもあってか、特に難しい娘さんの反抗期には、さすがの彼女も翻弄されてます。思春期なんて、身近に見なくなって久しい私ですが、手に取る様にお母さんの悩みを味わい、追体験することができるのは、それだけ率直に書かれているからでしょう。こんなに等身大のお母さんが出てくる破れかぶれの子育て指南書なんて他にないんじゃないかなぁ。全然気取ってない。やっぱり伊藤節。「良いおっぱい〜」もそうでしたが、関係ない境遇の人にもおもしろいエッセイです。

リラダンだったのか。
『ヨコジュンのびっくりハウス』
(横田順彌/双葉社)

知らなかったなぁ。有名なのかなぁ。慢性的もの知らずとしては、驚きました。
アンドロイドって言葉の生みの親はリラダンだったの?『未来のイヴ』で使ったのが最初だって。ふーん、そうか。ロボットはチャペックっつーのは、辛うじて知ってたんだけど。
と、まぁ小ネタ満載の微笑する本です。創作、SFパロディ、SF研究、コラム・コラム、五つのあとがきと一つの研究、ぼくと日本SF界、の全6章。古本ネタも多くて面白いです。H・R・ハガードの『二人女王』の明治36年版を探していた時、古書目録で『双子美人』って題を見て、これに違いないと思い込んでしまったヨコジュン。(まぁそういう変造の多い時代ですし。)届いた本を喜んで読むと、かわいそうな双子の姉妹の花柳界物語だったとか。ガンバレー。
角川で文庫化されていますが、この双葉社の単行本はけっこう稀少気味ですよ。

→アンドロイドつながり

村営パブぅ?
『おらが村の一億円は何に化けたか』
(外山操とグループ21/雄鶏社)

どうしても 見ちゃうネタってありありますか? なぜかツボにはまるネタとか、どうです?
わたしの場合、テレビでやってるとどうしても見ちゃうし、本が出てると立ち読みしちゃうネタは大体決まっています。
一つは、地球に帰還した宇宙飛行士のその後。他には、タイムカプセルに入れた手紙が届いて起こるドラマ。
それに、この本も入れてもいいかなと思います。アノふるさと創生金が、どう使われたのか。あんなにバブリーだったあの頃。ばらまかれたアノお金。1億も。一体、どうなったんだろう?
その気になるところを追跡調査して、まとめられています。欲を言えば、もっと一覧表や索引とかで、分かりやすく、勝ち組と負け組を示してほしかったけど(笑)、まぁ好奇心は充分に満たされます。
村営パブ、ほんとにやったとは存じませんでした。一億円て、みんなで使うとすぐなくなっちゃうんですね。私なら、マンガ喫茶ならぬ、図書喫茶を作ります。きっと和風で炬燵とかあるんですよね。図書茶屋?(うっとり)でも、それは自分の家かも。

プルーストのラジオ・ドラマ? しぶー。
『ラジオ・ロマン 失われた時を求めて』(中村真一郎/筑摩書房)

プルーストの「失われた時を求めて」をラジオドラマ化していた!なんて、驚きじゃありませんか?しかも1953年ですってよ。さすがにシブイ。
台本を書いたのは中村真一郎。キャストはー、うー、見てもピンと来なかったです。申し訳ない。
その失われたドラマ台本が井上究一郎氏のところから出て来て、出版の運びとなったそうですが、その間32年の空白。関係者の驚きも大きかったようで、本の半分が回想、説明にあてられています。
ところで一体、あの小説を何回におさめたのかと思ったら、諸事情により5回のみの放送だったようです。やっぱりね。脚本自体は、なかなか楽しくて感心しました。これなら、今でも聞いてみたい、と言うより、今だからこそ聞いてみたいなぁ。こういう、いい意味でギョッとするような企画をどんどんやってみてほしいですよね。煽情的だったり、面白おかしかったりするだけが能じゃないぞ、と力説したくなる、古き良きしぶさがあります。
→関連して

三つ子の魂はやっぱり百まで その2。
『江國香織とっておき作品集(「鳩よ!」特別編集)』
(マガジンハウス)

江國香織の単行本未収録作品集というフレコミですが、もっとも興味を持って読んだのは、父、江國滋が書き記した「香織の記録」。初公開となっています。目に入れても痛くない様子は、普通の父親とまったく同じ。でも普通の父親はなかなかこんな記録を付けてくれないですよ。目のつけどころがやはり作家でして、言葉に関することは鋭くチェックを入れています。
線を書いて「これゲンコーだから、アサヒさんがきたら渡してね」と言うとか(3歳)、「いま、パパははばかりにはいってます」と答えたとか(4歳)。
手形や落書きまであって、それはさながら江國香織スクラップブック。
はっきりした理由は不明ですが、読んでいて涙ぐんでしまいました。全然、ひとりよがりなところも過剰なところもなく、赤の他人の胸まで打ってしまうとは、江國滋、すごいです。一読の価値アリかと。

→関連して→スクラップブックランキング
→三つ子の魂その1

言われてみれば。
『どくろ杯─中公文庫─』
(金子光晴/中央公論社)

(以下、あくまでもこの作品についての感想でして、実際の歴史上のできごとについて、その善悪をとやかく言うものではありません。)

まだ日本人が、パスポートなしで満州や上海に行けた頃。詩人・金子光晴は夫人を伴い、中国を放浪します。当時、中国行きがどんな風に考えられていたのかと言えば
─「満州は妻子を引きつれて松杉を植えにゆくところであり、上海はひとりものが人前から姿を消して、一年二年ほとぼりをさましにゆくところだった。(本文より引用)」─あぁ、そんな感じだったんだなぁと、目からウロコ。こういう見方をしたこと、なかったですから。そっかー。今でもフランス人はパスポートなしでバカンスに行けると誰かが言ってましたが、それを連想しました。(ニュー・カレドニアとか南のフランス領?)
ゆっくり読みたい、詩人の自伝小説。

→詩人の書いた小説つながり

ヒステリックでグラマー、そんな理由?
『北村信彦。1962年12月19日、東京生まれ。』
(上田美穂/モード学園出版局)

ヒステリック・グラマーってじつは、一度も着たこともなければ、買ったことすらないのです。(テッテーテキに似合わないから。)でも、このデザイナーさんの話は面白い。いろいろ彼の人生の大事件も語られているんだけど、ブランドの立ち上げ部分が一番愉快。学校卒業後、入社していきなり新ブランドを任される。ブランド名は、ヒステリックでグラマーな女って、タチ悪そうだな、と思って決定。それから殺人的な超過密スケジュールで展示会。デザイナーって、みんな、そんなんなの?と思ったけど、彼は特殊な成功例みたいですね、当たり前か。
ブランドイメージ通りに、インパクトのある派手でカラフルな造本です。一般人にとっては異世界ぶりが愉快な本。

コバルト文庫にゲームブックが!
『恋にVサイン ハッピーエンド・ゲーム・ストーリー−集英社文庫コバルトシリーズ−』
(アマンダ・マクニコル/集英社)

有名な話だったらすみません。わたしはまさか、コバルトからゲームブックが出ているとは夢にも思っていなかったので、大変驚きました。ハーレクイン的なものとしては、「エロスの扉」なんていう作品(あれは明らかにゲームブックでしたよね)もありましたが、これはコバルトらしく、少女向けゲームブック。
ヒロインのキムは高校1年生。体操部に入ってかっこいいブライアンと出会ったけど、悩めるお年頃。部活動に打ち込めば、デートはできず、かと言ってサボってばかりいるとブライアンとの接点がなくなっちゃう。…という具合。キムになりきり、選択肢から希望を選んで話を進めるわけですが、注目してほしいのはハッピーエンド・ゲーム・ストーリーという副題。私、かなり無茶をしてみましたが、いつもハッピーエンドでした。ブライアンとチューしちゃいましたよ(笑)。

→ミニ特集・コバルト文庫

寺山修司、山口小夜子、内田裕也…。
『地球よとまれ、ぼくは話したいんだ』
(東由多加/毎日新聞社)

最近は、柳美里の小説「命」、その映画化で注目されることの多かった東京キッドブラザースの主宰者にして演出家、劇作家である東由多加の自伝。昭52年初版。まだまだ若い彼です。
俗っぽいですけど、この後の彼の運命を知る者としては、なんかさみしい気持ちになります。なんかなぁ。みなぎる若さと情熱と、未来にかける思いってヤツが、ぐっと来るんです。ついこの間亡くなられた方って、存命中の方に対する時とは違いますね、自分の中の淡い悲しみがリアル。
寺山修司はもちろん、交流のあったビッグネームたちがいっぱい出て来て、熱気の感じられるエッセイです。

→ドラマな題ランキング

老人ホームに幼稚園の案内続々届く(2000年1月)。
『2000年のど飴』(2000年問題研究会/ルー出版)

明治は遠くなりにけり。2000年も遠くなりにけり。
この本は1999年の8月に発行されています。タイムリーですね。どのくらい売れたのかな?
2000年問題で起こり得る危機をシミュレーションしています。
1999年8〜9月、探偵大忙し。
1999年12月、ナイナイ解散ヘ。
2000年1月、刑期終えたが出られない。
2000年1月、ディズニーランドで金返せコール。
2000年1月、フジTV脱出カプセル発動。
2000年1月、タ○リ、ハゲる。
2000年1月、2000年問題でダイエット成功続々。
などなど、120例あまり。題を読んで想像のつくもの、つかないもの、様々です。クイズになるかも(笑)。例えばね、

1999年12月、ウォーターベッド流行。

の理由、お分かりになります?
答えは読んでのお楽しみ(セコいですか?)。
2000年危機が理由じゃないけど、当たってる事例もあるようです。

デパートでライオンを買う。
『ライオン 街を行く』(アンソニー・バーク、ジョン・レンダル/平凡社)

昔、「空想生物の飼い方」とか「ライオンの飼い方」とかの役に立たないマニュアル本シリーズが流行りましたよね。これは、そのリアル版と申しましょうか、ほんとにハロッズでライオンを飼っちゃった青年二人の体験談です。
青年たちは偶然、ハロッズで売られている子ライオンを見かけ、その魅力にとり付かれ、幸せにしてやれるだろうと願って、買ってしまうのです。このシチュエーション、よく知ってますよね? あまりになじみ深い、衝動と苦悩、楽しみと困惑がそこにあります。─あんまりにもかわいいので、犬を買いました。お母さんに世話をするように言われた。けっこう大変だ!ちゃんと世話できるのかな?─
それがライオンになるだけの話です。ライオンはかわいく、よくなつきますが、当然大きくなります。そのとき青年たちはどうするのか?彼らは頑張りましたが、私はそれでもまだ「しっかりしろ!」と言いたかったです。
デパートでライオンを買ったら何が起こるのか、リアルに体験できるノン・フィクション。

カバーの構成が妙におしゃれ。

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