■なんでもランキング P1(2)
▼中に本が出てくる本ランキング
本に出てくる本、というものがあります。小説の中に出てくる小説。実在のものもあれば、架空のものもある。 小説Aとその中に出てくる小説Bが入れ子構造を成して、その虚実皮膜がテーマという場合もある。というわけで中に本が出てくる本ベスト5。
▼傑作。
『虚無への供物 講談社文庫』(中井英夫/講談社)
世に名高い、あの中井英夫の絢爛豪華な推理小説。 登場人物が「凶鳥の黒影(まがとりのかげ)」という探偵小説を書いた(あるいは書く)と言っています。 他の人の書いた「凶鳥の死」も出て来ます。 でも相変わらずペダンチックなので、それ以外に、 実在するいろんな本も引き合いに出されています。乱歩、ポオ、ルルー…。
巨匠の記念碑的作品というか、墓標的作品というか、日本探偵小説界の白眉となっていますので、虚無に捧げられた供物に、さらに捧げられた作品も多いですね。でもまだ巨匠には誰もかなわないでいるらしい、のはちょっと侘びしいかな。
※2分冊になって流通中です。
▼にやり。
『ジョン・レノン対火星人 新潮文庫』(高橋源一郎/新潮社)
ちょっとあらすじを書けるような内容ではない(?)ので、
それは割愛するとして、作中、王様が毎晩王様にお話をしてくれる人物を
次の3人の中から選ぶように言われます。
1 アラン・ロブ=グリエ、2 ノーマン・メイラー、3 野間宏。
王様は思います。
「消しごむが主人公のおはなしなんか面白くない。」
うんうん。ここ、にんまりしちゃうとこね。結局ロブ=グリエには断られるようです(笑)。
→火星つながり
▼これが出てくるのね、チラっと。 「消しゴム」 (アラン・ロブ=グリエ/河出書房新社) 消しごむが主人公のおはなし?
▼架空の人の書いた架空の詩集。
『ビリチスの歌 角川文庫』(ピエール・ルイス/角川書店)
古代ギリシャの女流詩人、ビリチスの詩。
というのはウソで、
それはすべて虚構。ビリチスという女流詩人自体、存在しません。
ピエール・ルイスの創作です。
本が出てくる、と言うより、これがその架空の設定の詩集なのです。
今でこそ時折見かけるトリッキーなプロットですが、
発行当時にしては信じられない位、異色で斬新だったと思うんですよね。
(※後日註:そうでもなくて、当時の流行だったようですが。)
参考文献の記述すら虚構。架空の詩人の架空の詩集。こういうの好き!
そして、この本、文字が深緑。(改版初版です。)
→文字が色付きつながり
→ウソホントつながり
▼ヴァージニア・ウルフぅ。
『オーランドー』(ヴァージニア・ウルフ/国書刊行会)
上記、ビリチスの歌に同じく、オーランドーという架空の人物の一生を描きます。
オーランドーは、男から女になり、何百年も生き、
若い頃から文学好きで詩作を試みます。
題は「樫の木」。
破天荒なオーランドーの生涯を追う楽しみもさることながら、
ペダンチックに散りばめられた文壇パロディも充実。
やっぱりこういうの好きだ!
(ちくま文庫版も出ています。)
→性転換つながり
▼幽霊が書いた?
『永遠も半ばを過ぎて』(中島らも/文藝春秋)
写植工の主人公がヤクでラリって目覚めると、
見たこともない文章ができあがっている。
彼と詐欺師の友人は、それをユーレイの書いた小説として
出版社に売り込むことを思いつく。
「今夜、すべてのバーで」「ガダラの豚」の著者にしてみれば、
ちょっと薄味ではあるけれど、着想がなんとも素敵じゃないですか?
題もいい。永遠も半ばを過ぎて。繰り返して陶然としてしまう良い響き。
これが他の題ではこうはいかないでしょう?
→幽霊つながり
→ドラマな題ランキング
▼セリフが出てくる。
『解体屋外伝』(いとうせいこう/講談社)
なんといっても、冒頭部分がすばらしい出来。 解体屋とは洗脳された人の洗脳を解く仕事人。 やり手の解体屋が昏睡から醒めるところから物語は始まるのですが、 昏睡の元は洗脳屋に敗戦したことなので、 彼の脳には使うべき自分の言葉がありません。 彼は既成の言葉(他者のテクスト)を使ってなんとか蘇ります。 「おなつかしゅう!」と。 ね、傑作の予感でしょ?個人的には最後まで既成の台詞のみで 語ってほしかったな。(無理だけどさ)
覚醒の間際、彼が自分の言おうとしていることが、
「他者のテクストの引用」に過ぎないのではないか、と躊躇するところが、
よくできているし示唆的だなと思います。
→記憶つながり
因みに→「おなつかしゅう」→高橋和巳「邪宗門」。
▼他に…
「ウロボロスの偽書」
(竹本健治)
→モザイクつながり
「死者の書」
(ジョナサン・キャロル)→蔵書家つながり
「三月は深き紅の淵を」
(恩田陸
)
→モザイクつながり
「麦の海に沈む果実」
(恩田陸
)
→モザイクつながり
▼音楽と小説の関係ランキング
音楽に縁もゆかりもない者にとって、音楽の天才は他の分野の天才とはまた違った魅力があります。音楽関連小説は人の心を打ちやすいと思うのですが、いかがでしょうか? 妙な言い方になりますが、必要以上に感動してしまう。何かこう胸に迫るものがあるのは、音楽の天才たちが並外れて真摯な態度で登場するからでしょうか? 俗世を離れた孤高の人と言いますか…。あ、わかった。超能力者もの、アンドロイドもの、などの異能力者に感じるのと同じ淡い悲しみを感じるのではないかしら? というわけで音楽に関する本ベスト5。
関連項目→楽器つながり
▼ロマンがあります。
『絶対音感』(最相葉月)
ノンフィクションなのにベストセラーになりましたね。 絶対音感を持つ人々のエピソードがぎっしり詰まっている。それがこう、叙情的なんですよねー。 絶対音感を持っていた場合、どんなことが起こりうるのか。思いもつかなかったエピソードに出会うと、優れた小説の着想に出会ったかのように楽しい。事実は小説より奇なり。 ある人はスプーンを落とした時の音の音階もわかる。それを面白がった相手が、あちこちをスプーンで叩いてまわる。「これはなんの音? じゃ、これは?」…このくだりが印象的でした。
▼世紀末ウィーン。
『ムジカ・マキーナ』(高野史緒/新潮社)
高野史緒さんの日本ファンタジーノベル大賞最終候補作。ムジカ・マキーナ。ミュージック・マシーン。音楽機械ってことですな。発表当時あらすじを読んで、ずいぶんカッ飛んだ話だなーと思ったものです。でも読後感はしごくまっとうでした。
登場人物は貴族、音楽家、アヤシイ興行師たち。舞台は世紀末ウィーン。ネタは音楽を快楽に変える麻薬「魔笛」と、恐怖の音楽機械。世間をあっと言わせた世紀末小説。ペダンチックな世紀末音楽サイバーパンク?とか言われてドキドキする方面の方に。
→日本ファンタジーノベル大賞つながり
▼読ませる。
『オルガニスト』(山之口洋/新潮社)
これも日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
読みながら、「もしかしてもしかしてあれなんじゃ、ああなるんじゃ」と思う小説
ってありますよね。これはまさにそう。
最初から最後までそうでありながら、でも読ませるってところがさすが。
しかも最後、涙した私。
「絶対音感」に感心した向きにおすすめです。
→日本ファンタジーノベル大賞つながり
▼気になる楽器。
『魔のヴァイオリン』(佐々木庸一/音楽之友社)
「レッド・ヴァイオリン」という映画がありましたが、
あれを楽しんだ方にオススメしたいノンフィクション。
ヴァイオリンの話。
音楽関連ではこういう楽器に関する逸話も楽しいですよね。
→芸術品つながり
▼どうして好きなんだろう。
『銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ ハヤカワ文庫JA』(大原まり子/早川書房)
自分がどこかおかしいのではないかと思うことってありませんか?
なぜこの話にこんなに感動するのか、と。
考えてもあまり論理的な答えは出なくて、
余計に問題の根の深さを感じることもしばしばです。
さて、人にとっての感動のツボはじつにさまざまですが、音楽、クジラ、少年少女…、
リリカルな題材を、リリカルなSFを書かせたら当代随一の著者が使い込まれた包丁をよーく研いで料理。
この本はかなり最大公約数的ツボだと思うんですが、いかがでしょうか?
SF嫌いにもおすすめしたい短篇集。
→クジラつながり
▼いつもあの音楽が…。
『死と乙女』(アリエル・ドーフマン/劇書房)
戯曲です。独裁政権下で、学生運動にかかわっていたヒロインは、
誘拐監禁され、拷問を受ける。
拷問の時、いつも流される音楽が、シューベルトの「死と乙女」だった。
それから15年後、かつての同志と結婚したヒロイン。
しかし、ある日、夫が連れ帰った人物の声を聞いたとき、ヒロインはかつて自分を拷問した男だと確信する。
「記憶に結び付く音楽」、というのも、なかなか心そそる設定ですよね。
聞く度に思い出す。聞いて甦る。
→記憶つながり
▼他に…
「ソングマスター」、「無伴奏ソナタ」(いずれもオースン・スコット・カード著)も忘れてはいけないところでしょう。
▼おまけ
映画「ベートーヴェン 不滅の恋」
3人の女たちが登場し、それぞれのベートーヴェンとの関わりが丁寧に描かれます。さてベートーヴェンがもっとも愛したのは誰だったのか? というお話。その答えを描いてる部分が胸を打ちます。あれなら、好きになっちゃうよねーって。
映画「フィフス・エレメント」
「愛は地球を救う」ってお話。その是非はともかく、あのオペラ歌手が朗々と歌ってるところは、ツボでした。大原まり子さんの「銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ」を思い出しました。
▼悪いヤツが出てくるランキング
とにかくすごい悪役が出てくる話ってありますよね。もちろんかっこよくない悪役ですよ。(かっこいい悪役はまた今度ね。)あんまりひどいと、「悪すぎてなんか笑える」ってこともあります。そんな本に出てくる悪いヤツベスト4。
▼アクションロマン。
『バナナ・フィッシュ』(吉田秋生/小学館)
有名な少女マンガ。中に出てくるマフィアの大ボス、ディノ・ゴルツィネがほんとーに悪いです。見た目も悪いよ? ハゲ・デブ・毛深い。そいつがヒーローのアッシュの行く手をことごとく阻む。つかまえる。いじめる。追っかける。邪魔する。逃げられる(笑)。つかまえる。でもアッシュに執着するあまり、生け捕りにしようとするのが彼の間違いのもとなんですけどね。ただ、このマンガでほんとに一番悪かったのは、もしかすると、アイツかもしれないですね。最後のアイツ。
→サリンジャーつながり
→バナナつながり
▼こわすぎる。
『青ひげ』
怖い。同情すべき点もない。
昔、これが童話のシリーズに入っていても、
あんまり怖いので満足に読めませんでした。
この青ひげ恐怖体験は、みんなの同類項のようで、
モチーフとして使われることが大変に多いお話かと思います。
→青ひげつながり
▼ホラー大長編。
『殺戮のチェスゲーム 上・中・下 ハヤカワ文庫』(ダン・シモンズ/早川書房)
人の心を操るマインド・ヴァンパイア。人は彼らにゲームの駒として使われ、殺し合う。極悪非道を絵に描いたようなヴァンパイアたちの怖さは1級品。悪すぎです。しかも一人じゃない。
さてさて、心を操るような相手といかにして戦うのか、文庫本で3冊を費やして語られる戦慄のホラー大作。やめられません。
→ドラキュラつながり
→チェスつながり
▼冒頭がいつもつらいです。
『ハリー・ポッターと賢者の石』(J・K・ローリング/静山社)
主人公ハリーを預かるおじさん一家の悪さにびっくり。童話に出てくる悪人並の悪さ。明るい筆致で書かれてるけど、やってることはえげつないですよ? 満足に食べさせずに働かせて、勉強道具を取り上げて階段下に閉じ込めて。改心するのかと思えばしないし。毎回、おじさん一家にいじめられてるハリーを見るのがつらくて、冒頭部分は読むスピードが落ちます。
→入学したい→入会したいつながり
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