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やっぱり日本人なのか。
「怪傑!ハウス・ハズバンド」
(村瀬春樹/晶文社)

著者の村瀬春樹さんはいわゆる主夫。(お仕事はしてるけど。)
今でもまだ珍しいと思うけど、この本が書かれた当時にはもっと珍しかったはず。いわば、先駆者の部類に入る(と思う)村瀬さんは、さすがにいいこと言ってます。「ハウス・ハズバンドには、生活に追い越されない責任がある」って。生活に追い越されない責任とはね、子供たちの空腹に追い抜かれない責任、床の隅にたまった埃や靴下の穴に追い抜かれない責任、…ですって。そうよね。私は埃には完全に抜かれてるなぁ。
さて、ある日著者が考えてた夕ごはんの献立
▼天日干しのアジのヒラキに大根おろし▼おからの煮付け▼みそ汁の実はワカメと豆腐と長ネギ▼ちょっと硬めの玄米ごはんに胡麻塩パラパラ…を読んで、めちゃくちゃおなかが減りました。ぐぅー。いいなぁー。
 あ、料理本ではなくエッセイですよ。

ちょっとした病気
「戸塚恵子のドールハウス」
(学研/
写真上

店主にはいくつか病気とも呼べる執着の種があるのですが、これはその一つです。
和風ドールハウス。昔から、ぬいぐるみの持ってるカバンの中身(小さな鉛筆やノート)とかに異常な執着を示す子供でしたが、最近はそんなことも忘れていました。ところが!ある日、さくらももこの著書の表紙の和風ドールハウスに目がクギヅケに。それを作ったのが戸塚恵子さんということで。ほほぅ。
何がスゴイって夜中にこの本のクリームみつ豆とか天丼とかを見ると、おなかが減るくらい、本物そっくり。しかもカワイイッ(ここがポイント)。
さくらさんと戸塚さんのなれそめについては、「雑誌 富士山 第1号」(さくらももこ編/新潮社/
写真下に詳しいです。

わたしも呼んでくれ その2
「美食倶楽部 ちくま文庫」
(谷崎潤一郎/筑摩書房)

谷崎の中でも特に谷崎な(笑)短篇集。谷崎潤一郎と言われると、すぐにコレを思い出す私も私だと思いますが、それほどまでに印象的であるこの短篇集を編集した種村季弘は偉かった、ということですよね。

さて、中でもやはり表題作。タニザキの言う美食倶楽部だから、どうせそんなことだろうとは思うのだけれど、それでもやっぱり、そう来たかと微苦笑まじりに読んで、二度と忘れられないわけです。高麗女肉。どんな料理と思う?食べたい?私は食べたい!

余談。
アシモフの黒後家蜘蛛の会もそうだけど、男はなぜ男だけでうまいものを食いたがるのか?なんか女がいて困ることでもあるのか?、って、タニザキの場合、大いにあるんですけど(苦笑)。

→入会したいつながり

「チョコレート戦争」
(大石真/講談社)

金泉堂のシュー・ア・ラ・クレームとエクレールが食べたい! この本を読んでそう思わない人はいない、と思うんですけど、いかがでしょうか? 子供の頃から食いしん坊万歳だったわたしは、この町に行って金泉堂のエクレールを食べることを切望していました。わかりやすくてシンプルなのにとにかくうまそうな洋菓子の描写はさすが。「銀のぼんにのせられた、いろとりどりの洋菓子…」、そうそうアノ銀のぼんがねぇ。ふー。

さて、店長同様ため息をつきながら金泉堂のショーウィンドーを眺めていた子供たちの目の前で、なんとショーウィンドーが割れてしまいます。なんにもしてないのに! 金泉堂の支配人はちっとも信じてくれません。無実の罪を着せられた小学生たちはショーウィンドーの中のチョコレートの城を盗み出すことを計画します。はたしてコトの成否は?!
読後に必ず洋菓子を買いに走りたくなる、なつかしい1冊。

→チョコレートつながり
→入会したいつながり

「スキヤキ」
いとうせいこう/集英社)

スキヤキスト・いとうせいこうがおいしいスキヤキを求めて 東奔西走。食いまくり、論じ尽くす、異色のスキヤキ本。(倉橋由美子「スミヤキストQ」のもじりとか。)

読後はとにかくスキヤキが食べたくて仕方がなくなるので注意。店主宅は割り下を使う関西風なので、関東風に対する憧れ炸裂。あれのほうが高級そうではなかろうか。それから、文中に出てくる「オイル焼き」、すごーくうまそう。大マジメのスキヤキ論に笑いながらも、しまいにはスキヤキをむさぼり食って、陶酔するいとうせいこうが憎たらしくなってくるグルメ垂涎の体験的スキヤキ論集。店名リストもついて、懐に余裕のある向きには ガイド本にうってつけ。(わたしのガイドにはなりませんでしたが。)

「私の作ったお惣菜」
(宇野千代/集英社)

料理エッセイなのですが、いきなり昔好きだった男の話に突入され、ぎょっとすることもあります。宇野千代さんがすぐそばにいてこちらに話しかけてくるような特異な文体も含め、ある意味、驚異の料理本。

▼店主の一押しは、超贅沢な極道すきやき。是非食したい。「みなさんがお作りになるときは、百グラム、千円くらいの牛肉でも、結構、おいしいものですよ」っていう締めが、また泣かせます。ほんとは三千円なんだって。
▼店主の失敗作は
白菜の胡麻和え。貧乏くさい味に仕上がった。なにがいけなかったのか、宇野千代のレシピ自体が悪いのかと、まだ疑念を抱いている。

「イル&クラムジー物語」
大原まり子/徳間書店)

銀河郵便の配達員コンビ、マッチョでナイーブな詩人イルと両性具有で美貌で怪力無双のセクサロイド・クラムジーの大冒険。シリーズ唯一の長編です。

冒頭、二人はあるゲームに巻き込まれてしまうのですが、そこでこの先の運命を決める果実を選んで食べます。(人生ゲームで一番初めに選ぶ職業みたいなもんでしょうか?)
クラムジーが食べたのはメロン(らしい)、これが禁断の実で=最下層からのスタート。早くも波乱含みの幕開けというわけ。物語の舞台の楽園リーサックは豊かな星で、問題のメロンのみならず、うまそうな果実がそこかしこになってるという設定。物語はいつもどおりの吸引力を秘め、イルといっしょに悩んでいるうちに、一気に加速していきます。

もしメロン好きの私がそこにいたら、やっぱりメロンを選ぶんじゃないか、そして中々抜け出せないのではないかと思って不安になるのです。

→アンドロイドつながり

「黒後家蜘蛛の会」
(アイザック・アシモフ/東京創元社)

アイザック・アシモフの有名連作推理短篇集。

黒後家蜘蛛の会(ブラック・ウィドワーズ)の面々は、毎月1回晩餐会を開く。ホストは持ちまわり。必ずゲストを一人連れてくる。歓談するうち、ゲストの身に起こったどうしてもすっきりしない小さな謎の話になって…、みんなで推理するけれど、結局謎を解くのは、傍らで慎ましく話を聞いていた給仕のヘンリーなのでした。

なのですが、黒後家蜘蛛の会は、毎回ウマイものを食べてます。食べ過ぎです。フルコースです。例えば、3巻のある日は伊勢海老の肉をほじくり出してバターに浸して食べる、ある日はリブ・ローストにヨークシャー・プディング、何か海のものを使ったチーズ入りのパイ、はたまたある日は、ロブスター・テルミドールにベイクド・ポテト、肉詰めの茄子、ホット・ボルシチという具合。くぅ。呼んで欲しい。招待してほしい。なんなら入会したい。でも残念ながら、黒後家蜘蛛の会は女人禁制なのです。なんでさ?

→安楽椅子探偵つながり
→入会したいつながり

「貧乏サヴァラン」
森茉莉/筑摩書房)

森茉莉さんの手料理、食べてみたいです。宇野千代さんのは作ってみたい、なんだけど、こちらは作ってほしい。茉莉さんって家事不能の人なんじゃ…と思ったら大間違い。本人もおっしゃってます。「掃除や洗濯は有がたくないが、料理をこしらえるのは楽しい」「私は一寸したレストランへ行っても、自分が造ったものほどおいしくないという、料理自慢である」。父親(森鴎外)も、母親も、きょうだいも、息子も彼女の造ったものを喜んで食べたと言います。

だからオムレットの造り方も、堂に入ってます。「バタァが溶けるのを待って」…。バタァか。私も今度からバタァって言おうかな。

森茉莉の食にまつわるエッセイをあつめた文庫本。ナイスアイディア。でも欲を言えば、美しい装丁の口絵入りの本なら尚よかったのになぁ。

→森家つながり

「赤毛のアン」
モンゴメリ/新潮社)

赤毛のアンのイチゴ水に憧れなかった女の子はいないはず。本に出てくるおいしい食べ物の集大成と言うか、初歩の初歩と言うか、隅から隅まで女の子の好きなものがつまったアンの世界は、いくつになっても忘れられません。

マリラはいっつもおいしいものを作ってくれるしー(果物入りのケーキ、さくらんぼの砂糖漬け、焼き菓子etcetc)、おいしいものを持ち寄ってのピクニックもある。アンも先生が家にやって来るとなれば、ケーキを焼いて大歓迎(失敗してたけど)。輝く湖水もすみれの谷もいいけれど、私のあこがれは、全面的に充実の食生活に向いてたんじゃないかしらー? と斑状の記憶に呆れる私。

アンは大学生になると、お友達といっしょに住み始めます。その友人の一人お嬢様のフィリパは非常に楽しい人です。「バターが値あがりだといって、気に病むなんて、まったく愉快なことね」とか言って。こういうとイヤな人のようですが、愉快な人なんですよ。ある日、フィリパは電車に乗っててポケットに入れてあったはずの白銅貨がないことに気付きます。どこにもない。どうしよう?…さて、どうなったんでしょう? 私は冬にバスに乗ると、必ずこのクダリを思い出すのです。

→気になる小話つながり(工事中)

「梅安料理ごよみ」
(池波正太郎/講談社)

知人が渡辺謙さんのファンで、テレビの藤枝梅安を見て、言ってました。「ウマイもの食べてるか殺してるか、どっちかだ」。いや、確かに。それは池波正太郎の作品全般に言えることなんですけども。御本人が食通なもんだから、主人公だって食べる食べる。梅安と言われると、土間にかかった鍋に向かって食べてるところが浮かぶもんね。

さすがに真田幸村は食べてないだろうと思うんですけど、今度「真田太平記」を調べてみなくては。(あ、幸村の父が食べてそうかなぁ)

さて、そんな梅安の食関連の部分をあつめて、それについて語った本。でも、男の料理というのは、すごくおいしそうでも、作ろうという気がしない、これは何故なんでしょう? めんどくさそうだから? うるさい決まりがありそうだから? 失敗しそうだから? あ、わかった。こんなんじゃないやいと、文句言われそうだから、じゃないかな。わが心の池波正太郎にさ。

「西洋骨董洋菓子店」
(よしながふみ/新書館)

ちょっと反則ですが、マンガに出て来るうまそうな食べ物には、絵のおかげでじつにダイレクトに心に響く魅力があります。とろりとかかったチョコレートと書いてあるのを想像して悶えるのもいいけれど、目でそれを見るのはまた格別じゃないですか。

「西洋骨董洋菓子店」のパティシエ小野さんが作る洋菓子の数々は、エイジ君ならずとも食べたい。近くにあったら絶対にあの店に通う。買って帰ってむさぼり食うのもいいけど、イートインでいい男たちに給仕してもらうのも捨てがたい。作ってる人が魔性のゲイ(笑)だろうがなんだろうが、一向に構わないってもんです。

ところで、作中、ショートケーキが小ばかにされてるのを見て、私は少し恥じ入りました。(ショートケーキ好きなので。)だからこそ、小野さんの作ったショート風のブッシュ・ド・ノエルが食べたかったです。もちろん橘さんに配達してもらって、ですね。

笑ったり涙したりした上に、おいしい思いまでできる、最近の傑作少女マンガ。

→ゲイつながり

「アリスの国の不思議なお料理」
(ジョン・フィッシャー/文化出版局)

作ってみるか?「吸い取り紙のプディング」(!)を?

一応食べられるものが出来上がることになっているので、お試しあれ。

訳は開高道子さん。食通・開高健さんの娘さんです。

→アリスつながり

「尾崎翠」
尾崎翠/筑摩書房)

これが食べたいわたしって…と業の深さを考えちゃうのは「尾崎翠」(尾崎翠/筑摩書房)収録「第七官界彷徨」で、おばあちゃんが上京した町子に送ってくれる勝ち栗。なんで、私はそんなひなびたものが食べたくなっちゃうのか? あ、でも考えてみれば、同作に出て来る蜜柑も食べたいしー。

おいしそうだから、という訳ではなくても、そこにあるドラマ性ゆえに食べたい、という場合もあるんですよね。本に出てくる食べ物って。

尾崎翠の作品は明治生まれの女性の手によるものとはとても信じられません。新しくて、勇ましいのに、清々しくて、詩情あふれる。明治女性ってもしかすると、こんな感じだったのかな、とも思います。
美しい装丁で書店に並んでいたら、素晴らしい新人作家が出てきたものだ、と感嘆してしまうことでしょう。
彼女の作品をまとめて読める1冊としておすすめ。

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